妄想バー。

建築家・長坂常が妄想する、多摩川の中洲に出現する気ままな酒場。

「もしも自分がバーを開くなら」という視点に立ったら、酒場をこよなく愛するクリエイターたちは、どんな理想像を思い描くのだろう。どんな空間に、どんなお酒を並べて、さて、おつまみはどうしよう……。実現可能性はさておき、ここでは自由に妄想を膨らませてもらう。

第2回のゲストは、建築家の長坂常さん。家具のデザインから、アパレルショップやカフェの内装設計、ホテルや複合施設の建築、さらにはその先のまちづくりまで、さまざまなスケールで場づくりに携わる長坂さんは、果たしてどんなバーを思い描くのだろうか。

岩や流木、川辺にあるもので作るバー〈川ら〉。

自分でバーを開くなら、多摩川に浮かぶ中洲でやってみたいですね。自宅が割と近いこともあり、日頃から、小田急線の和泉多摩川駅近くの河川敷によく遊びに行きます。コロナ禍で時間に余裕があった時は、仕事帰りに狛江の〈和泉ブルワリー〉に立ち寄り、そのままビール片手に散歩をするのが日課になっていました。そのうちサップも習得して、多摩川を起点に東京の川を巡るのにもハマったほどです。そして、訪れるたび気になるのがこの中洲。台風が来るたびに少しずつ形を変えるんですが、ドローンを飛ばして遊んでいる人がいたり、ポツンと座って釣りをしている人がいたり、あるいは水着になって泳いでいる外国人がいたり。誰もが我関せずで、自由にのびのびと過ごしているんです。郊外とはいえ都会の中にあるし、河原からは歩いて行けるのに、“無法地帯”でもいうような独特の空気が流れるこの場所に、バーがあったら面白いだろうなと、ふと思いました。

夜になるとひっそりと灯りをともす、バー〈川ら〉。河原で見つけた大きな岩をカウンターや椅子の代わりにして、席数は全部で3、4席ほど。

中洲自体がひっそりとした場所なので、そこにつくるバーもあくまでこぢんまりと。辺りが暗くなったら、“川ら”という店名と、矢印だけを書いた石の看板を河原に置いて、それをバーまでの唯一の道標にします。建物は、木の枝やトタン板、ドラム缶など、その辺に落ちていたり、流れ着いたりしたものだけでなんとか形にした、掘っ立て小屋のような佇まいが理想です。立ち上がったら頭がつっかえてしまうような、ごくごく小さな空間を想像しますね。一人で飲みたい人は、小屋の外に出て川面を眺めながら静かに飲んだり、お酒を片手に釣り糸を垂らして過ごしたりするのも、愉しみ方の一つ。あくまで自由に愉しんでほしいです。

岩のカウンターで差し出されるのは、気取らないお酒と日替わりのおつまみ。運が良ければ、店主自ら多摩川で釣り上げたうなぎの白焼きにもありつけるかも?

お酒のラインナップは、ビールやジン、焼酎など、カジュアルに飲めるものを揃えたいですね。おつまみもチーズや乾き物などを日替わりで用意したいんですが、目玉メニューにしたいのが多摩川産のうなぎ。ごくわずかながらうなぎが釣れるそうで、僕も一度トライしたことがありました。その時は空振りに終わりましたが、僕が慕う鰻釣りの名人が実際に釣り上げるのをこの目で見たので、再度挑戦して、釣れたものを蒲焼きや白焼きにして出したいなと。といっても仕入れは極めて不安定なので、ごく稀に提供、ということにさせてください(笑)。

……と、いろいろと妄想していたら本当にやってみたくなりました。僕自身は普段、仕事場の近くなどの都心でバーに通うようなことはあまりなく、あくまでも家の近所で、銭湯帰りに動線上にあるワインバーに寄る程度。気が抜けた状態で過ごしているところに、いろんな人が入れ替わり立ち替わりやってきて、ぽつりぽつりと言葉を交わす小さな交流と活気が好きなんですよね。〈川ら〉もごくローカルなスポットになりそうですが、散歩中や帰り道に思いがけず見つけたら幸せな気持ちになれそうじゃないですか。1回限りでもいいからやりたいですね。でも結局、意気込んで声をかけすぎて、人が来すぎてしまいそうですね……(苦笑)。

長坂常
建築家

ながさか・じょう/1971年大阪府生まれ。〈スキーマ建築計画〉主宰。テーブルやスツールなどの家具のデザインから、ショップの内装設計、まちづくりまで幅広く手がける。最近の仕事に、2026年9月20日に開業予定の香川・小豆島の施設〈島泊 / 島飯 / 島湯〉がある。

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