ミュージシャン・川辺素が考える営業時間外に寄り添う音楽たち

「営業終了」を告げてウイスキーの酩酊感を味わえるトラックリスト

自分がまるまる自分だけになれる時間。ある人は、ウイスキーのグラスを傾ける土曜の夜と答えるかもしれないし、日曜の午後のコーヒータイムかもしれない。人それぞれに営業時間外はある。みなさんの“営業時間外”はいつですか?そんなとき、どんな音楽を聴きたいですか?第6回はミュージシャンの川辺素さん。

川辺さんが考える営業時間外「ウイスキーの先に ゆらめく夜が いくつ?」

お酒を飲むからこそ、聴こえてくる世界もある

お酒はけっこう飲むんですが、ウイスキーは「お酒を飲んで愉しくなる」という自分の段階の先にある、「お酒をお酒として愉しみたい人のための嗜好品」だと思っていました。でも、今年の誕生日に飲食店の人から振る舞ってもらった〈ラフロイグ〉のウイスキーをすごく美味しいと感じて。あと、知人からスコッチの飲み比べに誘ってもらう機会もありました。そんなことが続いて、最近は何だかウイスキーの世界に呼ばれているような気がしています(笑)。

自分は基本的に家で音楽制作をしているので、作業を続けようと思えばどこまでも続けることができるんです。個人での音楽制作も仕事として引き受けた作曲・編曲も、趣味と遊びの延長のような側面があって、つい夢中になってしまう。そんな時、ある意味で強制的に“営業時間外”にしてくれるお酒の存在は大きいです。「お酒を飲んだから今日は営業終了」と自分に言い聞かせているみたいな。

ただ、“営業時間外”に入ったからといって音楽からまったく離れてしまうというわけでもなくて。お酒を飲みながら自分がその日につくった楽曲を繰り返し聴いたりしています。やっぱり作業中は楽曲の気になるところをずっと虫眼鏡で探しているような感じがあるんですよね。それがお酒を飲みつつリラックスして聴くと、あまり細かい部分が気にならなくなって、そこで初めて理解できる曲の良さもある。ライブハウスやクラブではお酒を片手に音楽を聴く人が多いので、そんな時にどう聴こえるのかを知っておくことも大事だなと思います。

個人的にウイスキーには、スモーキーで霧がかかっているような印象があります。今回はそのイメージをトラックリストに落とし込んでみました。1曲目に選んだのはウルリッヒ・トロイヤーの「VAJOLET」。レゲエ由来の正統派のダブというよりも少しゆとりのある感じが、自宅での作業を終えた瞬間とシームレスにつながる気がして選びました。他にもスピーカーの奥で独特の音像が広がっていくような5曲目、最近ライブで観てよかった阿部芙蓉美さんの「オーガンジー」など、ビートがあるにしてもゆったり聴ける楽曲が中心で、ウイスキーの心地よい酩酊感を味わえるトラックリストだと思います。


川辺 素
ミュージシャン・音楽プロデューサー

かわべ・もと/1987年奈良県生まれ。2009年よりバンド「ミツメ」のボーカル・ギターとして活動。2024年にバンドが活動休止して以降はソロでの音楽活動のほか、他アーティストのプロデュースや楽曲提供、DJなどを行っている。

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