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洋酒天国

「伝説の広報誌『洋酒天国』を語る夜」レポート。

 伝説の広報誌『洋酒天国』をご存知だろうか。1956年から1964年にかけて株式会社壽屋(現SUNTORY)が発行していたPR誌で、作家の開高健らや山口瞳らが編集人として参加していたことでも知られている。そのユーモアあふれるコンテンツと洒落たデザインは今も根強いファンが多く、「NORMEL TIMES」が生まれるきっかけにもなった。

『洋酒天国』について語る特別なトークイベントが、マガジンハウスの創立80周年記念イベント「マガジンハウス博」のプログラムとして、10月17日(金)に『Ginza Sony Park』で開催された。

 ゲストとして登壇したのは『洋酒天国』の編集者の小玉武さん、そしてBRUTUS編集長の田島朗、POPEYE編集長の町田雄二。『洋酒天国』の知られざる秘話や当時の編集部の裏話、「NORMEL TIMES」について……とさまざまなエピソードが飛び交った。そんな一夜限りの特別なトークショーの様子を、ハイライトでお届け。

まずはスコール!

 トークが始まる前に、まずは乾杯から。今回は特別に、小玉さんがSUNTORY社内で乾杯の際に使われる掛け声「スコール」(デンマーク語で「乾杯」)を披露してくれた。世界で初めて5大ウイスキーの原酒をブレンドした「碧Ao〈海薫るハイボール〉缶」を手に、会場全員で「スコール」! 会場もあたたまり、いよいよイベントスタート。

碧Ao〈海薫るハイボール〉缶
スコール

『洋酒天国』との出会い。

MC まずは「NORMEL TIMES」を作るきっかけになった『洋酒天国』について改めてどのようなものか教えていただけますか?

小玉 創刊したのが1956年。高度経済成長期で勢いがあった時代に壽屋(現SUNTORY)の広報誌として誕生しました。壽屋の社員だった作家の開高健さん、イラストレーターの柳原良平さん、アートディレクターの坂根進さん、少し遅れて入社した作家の山口瞳さんによって制作されていたんです。私は1961年、大学4年生の頃から手伝い始めました。

MC 田島さん、町田さんは『洋酒天国』についてどのような印象をお持ちでしたか。

田島 初めは『洋酒天国』の番外編的な豆本『洋酒マメ天国』から知りました。マガジンハウスに入社して先輩から何十巻も揃ったセットを見せてもらったんです。

町田 同じく『洋酒マメ天国』から知りました。表紙のデザイン、内容から自由闊達な様子が伝わってきて、一企業の広報誌とは到底思えない、レベルの高いものだなと衝撃を受けました。いま見ても全く色褪せない。

小玉 豆本を作り始めたのは1967年。SUNTORYの2代目社長である佐治敬三さんをはじめ、山崎隆夫さんや開高健さん、柳原良平さん、山口瞳さんなどのSUNTORY宣伝部出身者が1964年に立ち上げたクリエイティブ会社〈サン・アド〉が作っていたんです。今とは違って、創立当初はほとんどSUNTORYの仕事しかなかったので、余力でいろいろなことに挑戦していました。豆本もその一環ですね。

町田 他の仕事もこなしながら雑誌を作るってすごいことです。愉しんで作っているのが伝わります。

小玉 開高さんはとにかく雑誌が好きなんです。国文学者の谷沢永一さんの家を図書館のように使って、本も雑誌も読み漁っていました。

『洋酒天国』の編集者・小玉武さん
小玉さんが持っているのが1967年から1970年にかけて刊行された『洋酒マメ天国』。澁澤龍彦、吉行淳之介、伊丹十三、和田誠、横尾忠則など豪華な執筆陣によるエッセイが中心。『洋酒天国』と同じくバーや酒販店に置かれていた。

「ノーメル賞」と「ノーベル賞」。

MC 現代版『洋酒天国』のようなメディアを作ることになったのはどんなきっかけだったのでしょうか。

田島 SUNTORYのウイスキー事業部の方からお声がけをいただいたんです。開高さん、山口さんなど伝説の先輩方が作ってきたものに携われるのは編集者冥利に尽きますし、POPEYEとBRUTUSで一緒に仕事をするのも珍しいので嬉しかったですね。

小玉 「NORMEL TIMES」の名前の由来になったのは、『洋酒天国』の中にあった「ノーメル賞」という企画。カクテルのレシピを一般公募して良いものを選出するコーナーでした。1949年に湯川秀樹さんが日本人として初のノーベル物理学賞を受賞したのですが、SUNTORYの創業者、鳥井信治郎は教育熱心な人で学問への敬意があるんです。そんなリスペクトを込めて、「ノーメル賞」という企画を生み出したんですよ。ちなみに、日本発祥のオリジナルカクテルとして有名なウォッカベースの「雪国」は、実は「ノーメル賞」から生まれたもの。ノーベル文学賞を受賞した川端康成の代表作も『雪国』なので、ノーベル賞との縁を感じます。

MC 小玉さんは「NORMEL TIMES」をご覧になってどのような印象を受けましたか。

小玉 カクテルや洋酒の文化を世の中に知ってもらう新しい手段だと思いました。コンテンツの中だと「美酒百景」が特に面白かったです。あとジャズとウイスキーはすごく相性がいいので「営業時間外のトラックリスト」もいいなと思いました。話がそれますが、ジャズ ピアニスト、シダー・ウォルトンの「サントリー・ブルース」もおすすめですよ。SUNTORYのために書いてくれた曲です。

MC 田島さん、町田さんのおすすめのコンテンツも教えてください。

田島 「肴になるジョーク」が好きですね。今はヘルシーなジョークですが、『洋酒天国』には少々艶っぽいネタもあって、そういうのも面白いですよね。

町田 「ショッピングカタログ」の企画は遊びながら作っている感じがして好きです。例えば、初回で紹介しているデキャンタ。なくてもいいけれど、あると気分が高揚する。ムダにこそ豊かさがあると思います。「NORMEL TIMES」には名刺があるんですが、それも同様で、必要か不必要かは関係なく、モノがあるだけで盛り上がるんですよね。

田島 雑誌は売らなきゃいけないというプレッシャーがあるけれど、広報誌は好きなことを自由にできるのがいいですよね。

田島さん、小玉さん、町田さん
左からBRUTUS編集長の田島朗、小玉武さん、POPEYE編集長の町田雄二。 会場のBGMは「営業時間外のトラックリスト」で紹介されていた曲。

MC おすすめを聞くともう一度読みたくなりました! 田島さん、町田さんはどのような思いで「NORMEL TIMES」に携わっていますか。

田島 お酒を飲みながら時間を過ごすようにワイワイと愉しんでメディアを作っているので、その空気感を伝えられたら理想的です。

町田 今回改めて洋酒天国全60冊を見ていたのですが、全て面白い。面白いものは腐らないんです。POPEYEも昔のバックナンバーを今も大切に残してくれている人たちがたくさんいるのですが、それは今見ても愉しめるからだと思っていて。時代によってアウトプットの仕方は変化していくけれど、せっかくSUNTORYとオフィシャルで『洋酒天国』の末裔のメディアが作れるのだから「NORMEL TIMES」でしかできない面白いことをしていきたいです。

小玉 『洋酒天国』に関わっていたとき、佐治敬三さんから「宣伝のことは念頭に置くな。面白い雑誌を作ってくれ」と言われていました。その気持ちが大切だと思います。

MC あっという間にお別れの時間になってしまいました。一言ずつコメントをお願いします。

田島 尊敬している雑誌『洋酒天国』のDNAを受け継ぐものを作っていること、小玉さんとこうしてお話しできているのが光栄です。これからも様々なコンテンツを発信していく予定ですので、応援してください!

町田 作って愉しいと思えるメディアに携われているのが幸せです。「NORMEL TIMES」はウェブマガジンですが、いつか『洋酒天国』のようにバーに置かれる冊子も作りたいですね。

小玉 開高さんや柳原さんなど偉大な上司の話がたくさんできて嬉しかったですし、先輩たちも喜んでくれると思います。お墓参りで必ず伝えます。「人生は総じて短いから、ろうそくが消えないうちに楽しめよ」という海外の作家の言葉があるのですが、開高さんがそんな趣旨の話をよく話してくれていたことを思い出しました。お集まりいただいた皆さまも健康に過ごしているうちにいろんなことを経験してくださいね。

「伝説の広報誌「洋酒天国」を語る夜」
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