京都の大学生
山下敦弘
映画監督

京都の大学生

いい酒場、記憶に残る酒場ってなんだろう。各界の一流が綴る、忘れられない酒と酒場の物語。第13回は映画監督の山下敦弘さん。


 2022年の5月から2カ月ちょっと、撮影のため京都の二条に滞在していた。

 台湾映画『1秒先の彼女』を日本映画としてリメイクするという自分にとっては初の試みだったので、日々手探りのような毎日を過ごしていた。

 京都市内はもちろんのこと、天橋立や伊根の舟屋など様々な場所で撮影を行った。コロナ禍という状況もあり、ほとんど観光客のいない京都の風景はいつもとは違った時間が流れていたように思う。

 リメイクするうえで“京都”という街を選んだ理由は、もちろん街の風情の良さが大きいのだが、街に流れる時間が京都って独特だな、と常々思っていたことが大きい。

学生の頃、京都の知り合いの家に遊びに行ったりすると、体感としては1週間なのに、2、3日しか経っていないという不思議な感覚があった。その頃の印象のせいもあってか個人的に京都のイメージの中に“大学生”というのもある。

自分は大阪の大学生だったのだが、京都の学生は他では見ない独特の存在感を持っている。“持っている”というよりは“与えられている”というような印象。

 大学3回生の頃、自主映画のチラシを撒きに京大の吉田寮を訪れたことがある。大学の周りには学生運動を思い起こさせる立看板がいくつも並んでいて、吉田寮に足を踏み入れると、そこにもまた1960年代からタイムスリップしてきたかのような学生たちがいて、よそ者である自分のことをじ~っと睨んでいる。

その時の光景が今でも鮮明に焼き付いていて、自分の中で“京都”=“大学生”というイメージがあり、映画の中で描きたいという想いがあった。

 にしても、イメージにある“京都の大学生”ってどこに行けば会えるのか?吉田寮に飛び込みで行ってみるのもいいかもしれないが、あの時みたいにまたじ~っと睨まれてもなぁ、と悩んでいたら高円寺のカレー屋さんに教えてもらった『村屋』という飲み屋のことを思い出した。出町柳にあるその店は京大からも近いエリアにあって、もしかしたら一人くらいは学生に会えるんじゃないか?と思い立ち、作業終わりに一人で飲みに行くことにした。


 駅から1、2分のところに『村屋』はあった。中に入ると縁日に紛れ込んだような空間が広がっていて、様々な年齢層の常連たちで賑わっている。テーブル席がいっぱいだったので、カウンターで飲んでいると隣に一人の若者が並んできた。ふとその若者を見ると“いつの時代?”と思わせる風貌で、まさにイメージ通りの“京都の大学生”そのもの。

もしや、と思い話しかけてみると京大生で吉田寮の住人、さらに休学を挟みつつ9年も大学生をしているというかなりの強者だった。探し求めていた学生がいきなり見つかってしまった状況に驚きつつ、連絡先を交換し、その場で映画への出演をお願いした。


 『村屋』で過ごす時間を思い返してみても、やっぱり京都には他とは違う独自の時間の流れがあるように思う。表はせっかちな印象だが、中に入り込むとまったりとした不思議な時間の流れ。

 それからというもの京都に行く度に『村屋』には立ち寄ってしまう。あの時のような奇跡の出会いが毎回あるわけじゃないけど、店員さんや常連さんと話していると時間を忘れ心地よい時間はあっという間に過ぎていってしまう。

 独特な時間の流れを感じに、また近々京都に行きたいと思う。

 

山下敦弘
映画監督

やました・のぶひろ/1976年愛知県生まれ。99年、『どんてん生活』でデビューし、『天然コケッコー』で報知映画賞監督賞受賞。主な監督作に映画『リンダ リンダ リンダ』『オーバー・フェンス』『1秒先の彼』『カラオケ行こ!』『化け猫あんずちゃん』など。

*記事内には飲酒や飲料店に対する著者の個人の見解も含まれています。

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