Vol.4『グレート・ギャツビー』

1920年代のニューヨーク郊外を舞台に据えた『グレート・ギャッツビー』が描くのは、豪邸に住む謎の男ジェイ・ギャッツビーの物語だ。夜ごとド派手なパーティを主催する彼の目的はただひとつ、対岸で暮らすデイジーの気を引くこと。ギャッツビーには、良家の子女であるデイジーと身分違いの恋に落ちた過去があったようだ。その後、いかがわしいビジネスに手を染め、巨万の富を築いた彼は、今ならデイジーと結ばれるに足る男だと自覚しているらしい。実際、彼女は既にトムという金持ちと結婚しているが、ギャッツビーと再会すれば、夫の目を盗んでキスを交わしたり、まんざらでもない様子だ。
いよいよギャッツビー、デイジー、トム、それから数名の知人たちが、〈プラザ・ホテル〉で一堂に会し、一触即発のラブバトルを繰り広げるのは、うだるように暑いある夏の日のこと。既にデイジーとの関係に気づき、ギャッツビーの後ろ暗い過去の調査すらしているトムは、そのことを白状させようとするが、ギャッツビーはとぼけるばかりだ。これに慌てふためくデイジーが、作り笑いをしながら言うのがこの台詞。
ミントジュレップとは、ミントの香りが涼しげなウイスキーベースのほんのり甘いカクテルのこと。それで男たちの尊厳を賭けた諍いを収めようとする姿は、夢見がちで幼さの残るデイジーらしいと言えるかもしれない。もちろん、そんなことで収まるはずもな諍いは、直後に取り返しのつかない事態を招くだろう。
『グレート・ギャッツビー』は、しばしば青春の終焉を描いていると評される。ついにコルクを抜かれることなく物語から退場するウイスキーと、それによって作られるはずだったミントジュレップという爽やかな響きを持つカクテルは、デイジーにとって甘美な青春時代を続けるための”最後のよすが”だったのかもしれない。
20世紀のアメリカ文学を代表する小説家、 フィッツジェラルドによる不朽の名作。舞台はジャズが活況を呈し、フラッパーガールたちが頭角を現した”狂騒の二十年代”。中西部の資産家の息子ニックは、第一次世界大戦で心に傷を負い、ニューヨーク市の郊外に越してくる。ニックは隣家で夜な夜な盛大なパーティを繰り広げるギャッツビーに興味を抱き親交を深めるが、それは悲劇の幕開けだった。