Vol.8『バーンズ詩集』

バーンズ詩集
ロバート・バーンズ著、中村為治訳「スコットランドの酒」(『バーンズ詩集』収録) 岩波書店
「あゝウヰスキー! 遊びと惡戯の生命!
詩人の心からの感謝を受けてくれ!」
ウイスキーへの見果てぬ愛を詩に昇華。

 百貨店の閉店間際に流れる歌といえば、「蛍の光」がお馴染みだ。実はこの曲、スコットランドに古くから伝わる民謡、「オールド・ラング・サイン」がベースになっていることをご存知だろうか。オリジナルの歌詞は失われてしまったらしいが、今も歌われている歌詞を手掛けたのは、17世紀に同国で活躍した国民的詩人のロバート・バーンズだ。旧友と再会し、酒を酌み交わすという内容であり、蛍はまったく関係がない。

 そのことからもわかるように、バーンズはとにかく酒を好み、中でもウイスキーを愛していたという。ゆえに、ウイスキーをテーマにした詩も少なくない。そのものズバリ、「スコットランドの酒」からは、彼の熱い思いがひしひしと伝わってくるだろう。

 なんせその詩の中で、ウイスキーは「あゝお前、私の詩神(ミューズ)」と崇められ、「お前の名前を歌わしてくれ!」と懇願されるばかりか、「お前は暗い絶望を陽気にさへする」と最大限の評価が与えられるのだから。しかも、「其のほんの少量の粥か、又は其のパンを/お前は美味く味付ける」と、調味料としての”おばあちゃんの豆知識”的な魅力まで余すことなく伝えようとするんだから、涙ぐましい。現代であれば、推し活と呼ぶに相応しい振る舞いではないか。

 そして、その愛が最高潮を迎えるとき、叫ぶように綴られるのが、「あゝウヰスキー! 遊びと惡戯の生命!/詩人の心からの感謝を受けてくれ!」という詩句。ウイスキーに感情があるかは定かじゃないが、そこまで言われたら悪い気はしないだろう。

 ちなみに、スコットランドでは、バーンズの誕生日である1月25日に、「バーンズ・ナイト」(またの名を「バーンズサパー」)と呼ばれる行事が催されるという。これまた彼が詩を捧げているハギスというスコットランドの伝統料理(羊の胃袋にミンチにした内臓やオートミール、タマネギ、ハーブなどを詰めて蒸したもの)を食べつつ、ウイスキーを酌み交わすそうだ。ここまで推していたウイスキーにまつわる国民的行事まで作ってしまったんだから、天国の彼もさぞ喜んでいることだろう。

『バーンズ詩集』
ロバート・バーンズ、中村為治訳、岩波書店

1759年、スコットランドの片田舎の百姓の家に生まれたバーンズは、父の英才教育の成果により詩作に目覚める。本書にはその後に国民的詩人となった彼の代表作82篇が収録されている。

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