Vol.1『羊をめぐる冒険』

『羊をめぐる冒険』
『羊をめぐる冒険』講談社
二杯めのウィスキーというのが僕はいちばん好きだ。一杯めのウィスキーでほっとした気分になり、二杯めのウィスキーで頭がまともになる。三杯めから先は味なんてない。ただ胃の中に流し込んでいるというだけのことだ。
ウイスキーは「ことば」にできるのか。

 1978年のある日、主人公「僕」のもとに一通の手紙が届く。送り主は大学時代の親友であり、今は放浪の旅に出ている鼠。そこに書かれた依頼により、鼠の元恋人に別れを告げるべく地元に戻った「僕」は、彼女と落ち合ったホテルのコーヒー・ハウスでウイスキーのオン・ザ・ロックを飲む。そのとき、「僕」の胸中に浮かぶのがこの言葉だ。

 ところで、著者の村上春樹は、スコットランドとアイルランドの蒸溜所を訪ねる紀行文『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』にこう綴っている。「もし僕らのことばがウィスキーであったなら……僕は黙ってグラスを差し出し、あなたはそれを受け取って静かに喉に送り込む、それだけですんだはずだ。とてもシンプルで、とても親密で、とても正確だ」。しかし、​​「ことばがことばであり、ことばでしかない世界」に住む僕たちにとって、言葉がウイスキーになる幸福な瞬間はなかなか訪れない。『羊をめぐる冒険』における、シンプルでありながら含蓄のあるこの一節は、もしかすると言葉がウイスキーになった幸福な例なのかもしれない。

『羊をめぐる冒険』
村上春樹

『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』に続く、「僕」と鼠をめぐる三部作の完結編。北海道にいる鼠に頼まれ、「僕」は自身が制作するPR誌に星形の斑紋を背負った羊の写真を掲載する。これがきっかけで「僕」に接触してきたのは、その羊を探しているという右翼の大物こと先生だ。先生に羊を見つけてくるよう命じられた「僕」は、ガールフレンドと2人で北海道を目指す。

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